プログラム

市民講演会

以下の2つのテーマで市民講演会を開催します。2つの講演は、別の時間帯に開催されますので、両方参加することもできます(参加費は無料)。事前参加受付は、こちらから手続きできます(8月20日(水)17時まで)。多くの方々のご参加をお待ちしております。

日 時:2014年9月13日(土)16:30~18:00
場 所:東京大学 本郷キャンパス 経済学研究科棟地下1階 第1教室
受付開始:15:30

テーマ1:統計からみた保険の仕組み

講演者:杉田 健(三井住友信託銀行)

時 間:16:30~17:15(45分)

概 要:

本講演では、リスクに対処するための効果的な仕組みである「保険」について、統計の観点から図を多く用いて解説します。
保険は不確実な事象に対処する手段として今や企業活動や日常生活に欠かせないものとなっています。例えば、2011年10月にタイで発生した洪水で、日本から進出している企業の工場は大きな被害を受けましたが、多くの損失が保険で補填されました。個人にとっても自動車事故・火災・疾病・死亡等に対する備えとして保険は多く活用されています。また年金は老後の安心のために欠かせないものとなっていますが、これは生存に対する、すなわち老後収入がなくて生活に困ることに対する保険といえます。
保険にとって統計は重要な役割を担っています。リスクに対する保険料について当初は粗い計算が行われていましたが、統計の活用により精密な計算ができるようになったからです。貢献が大きいのはハレー彗星で有名な英国の科学者エドモンド・ハレーです。ハレーは1693年の論文で、ハプスブルク帝国のブレスラウ(現在ではポーランド西部のヴロツワフ)の住民の死亡記録に基づいた死亡年齢の統計分析に基づき、終身年金保険購入者の年齢に応じた適切な年金の保険料(掛金)を算定しました。本講演では保険の仕組みを、統計との関係を踏まえて解説するものです。

テーマ2:漱石の目指した統計科学

講演者:椿 広計(統計数理研究所)

時 間:17:15~18:00(45分)

概 要:

ロンドン留学時代夏目金之助は、一時同宿となる化学者池田菊苗(味の素の発明者)との一連の科学論議に大いに感化された。池田帰国後1901年9月、近代統計科学創生の書として著名なKarl Pearsonの「科学の文法第2版」を購入する。これを批判的態度で一気に読み進めるとともに大きな共感を覚える。この後、文学評論を統計科学とする10年計画を立て、科学の文法に即した態度、彼の言う「自己本位」の姿勢で英文学の研究を開始する。実際、夏目留学時の大学ノート、帰国後東京大学で行った講義「文学評論」、並びに文学論の序の草稿は、Pearsonの影響を色濃く残している。本講演は、夏目の留学を遡る明治維新直前のロンドンの中学校でのPearsonと菊池大麓(数学者、後に文部大臣)との出会いからスタートし、Pearsonとその周辺が科学の文法を確立した活動、夏目が科学の文法に出会い、それに基づく文学評論研究を志向すると同時に、科学の文法を乗り越えようとした思い、更に漱石の研究に対する先人たちの評価までの範囲を叙述したい。
また、夏目や弟子の寺田寅彦の残した言葉を通じて、Pearsonが構想した統計科学がどのようなもので、どのような考え方として解釈されたかも紹介する。