プログラム委員会報告

プログラム委員長 西井龍映(九州大学)

 2011年度統計関連学会連合大会は,統計関連学会連合の6学会 (応用統計学会, 日本計算機統計学会,日本計量生物学会,日本行動計量学会,日本統計学会,日 本分類学会)の共催,九州大学 GCOEの後援により2011年9月4日(日)から7日( 水)まで開催されました.4日は市民講演会およびチュートリアルセッションを アクロス福岡(福岡市)で,5日からは本講演を九州大学伊都キャンパスで開催 しました.交通・宿泊に不便な新キャンパスでの開催であることや台風の影響が 心配されましたが,参加者総数821名,発表件数299件を数えました.講演数の内 訳は 企画セッション55件, コンペティション 29件, 一般 215件です.また懇 親会には191名の出席があり,盛会でした.講演者,座長,企画セッションオー ガナイザー,出席者の皆様に感謝申し上げます.

 大会では2011年3月11日の大震災に関連した発表が見受けられました.なかでも 特別企画セッション「大震災の科学的評価と人間行動」は250名の参加があり, 地震・津波予測の精密化,放射線影響の疫学調査の必要性,風評被害の抑制等, 今後統計研究者がなすべきことについて熱い議論が交わされました.(連合大会 の震災への取り組みについては朝日新聞で報じられました.また震災に関連した 日本統計学会和文誌の特集が企画されています.)以下ではプログラム委員会が 担当しました企画について,各担当者が報告いたします. 実行委員,運営委員,プログラム委員の皆様には献身的なご協力をいただき,無 事に大会を閉じることができました.あらためて心から御礼を申しあげます.

チュートリアルセッション報告

大森崇(同志社大学), 栗原 考次 (岡山大学)


[テーマA]ゲノム情報に基づく個別化医療へ:マルチオミックスデータと統計解析

講師:井元清哉(東京大学)
 チュートリアルのテーマAは,東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センター の井元清哉先生に「ゲノム情報に基づく個別化医療へ:マルチオミックスデータ と統計解析」というテーマでお話ししていただきました.会場はアクロス福岡4F 国際会議場でした.前半は,参加者全員が必ずしも馴染みがあるわけではない分 子生物学の基礎的な話から始まり,疾患原因の遺伝子を探るためのどのようなこ とが行われているのかをわかりやすく解説していただきました.分子レベルの話 から疾患のメカニズムの話など広い範囲の内容の中で,大規模なデータがどのよ うに得られるかということから,広く行われている解析の結果の紹介までカラフ ルなグラフィカル表示で提示されていたことが印象的でした.後半は,遺伝子間 のネットワークの話題が中心になり,どのようにネットワークを構成するかとい う数理的な方法の原理と,それを実現するためのスーパーコンピュータの話題で した.ネットワークの構成に関しては,既存の構成方法の解説だけでなく,最近 開発された個々人のネットワークを構成するネットワークプロファイラーの必要 性やアイデアをわかりやすく説明いただきました.さまざまなバックグランドの 参加者を相手に広範な内容を3時間にまとめるのは大変な作業ではなかったかと 思います.会場が次に使用する予定があったため,ゆっくり質疑の時間が取れな かったのは残念ですが,次々と紹介される興味深い内容に約80人の参加者も満足 いただけたのではないかと思います.


[テーマB] 時空間統計学の理論と経済・脳信号データ分析への応用

講師:松田安昌(東北大学),吉田あつし(筑波大学),三分一史和(統計数理研究所)
 第1部では,松田先生に時空間データ分析の基本的な考え方について紹介してい ただきました.講義では,主に空間回帰モデルに焦点を当て,時空間予測(クリ ギング),推定法,状態空間モデルによる時空間データ分析について,時系列分 析の方法と比較しながらどのように拡張されているのかをわかりやすく解説して いただきました.

 第2部では,吉田先生に時空間統計学の空間計量経済分析への応用についてお 話ししていただきました.講義では,立地戦略を含めた企業の戦略における競争 と空間の経済理論的背景として,差別化,競争の指標に基づくモデルとその分析 について解説するとともに,具体例として,競合する航空会社の出発時間,私立 中学の入試日程,診療所の立地への応用等について紹介していただきました. 第3部では,三分一先生に脳信号データの時空間解析への応用について解説して いただきました.まず,脳科学分野の紹介及び脳信号データの計測方法について 丁寧に説明していただきました.次に,脳信号データを,時間軸,空間軸,周波 数軸に分解した3つのドメインに対する解析法について,代表的な解析法と実デ ータへの適用についてわかりやすく解説いただくと共に,最近の研究成果を紹介 していただきました.


講演の後,質問の時間を設け,階層ベイズモデルや迷惑施設の立地問題等につい て活発な議論が行われました.


市民講演会報告

大森 崇(同志社大学)

 市民講演会は9月4日アクロス福岡4F国際会議場で行われました.例年と同様に 2テーマが用意され,テーマ1は村上征勝先生(同志社大)による「若紫やさぶら ふ―いま『源氏物語』をコンピュータで読む」,テーマ2は長尾篤志先生(国立 教育政策研)「新学習指導要領で目指すもの−統計の内容を中心に−」というテ ーマでお話しいただきました.台風の影響もあり時折激しい雨も降っていました が,会場には多くの100名以上の参加者が集まりました.村上先生のお話は日本 が誇る歴史的な文学作品,源氏物語についてです.54巻からなる壮大な物語はは たして同一人物によって書かれたのかどうかについて,文章に現れる言葉のデー タベースから品詞を集計することで検討を行うという内容でした.長尾先生のお 話は,新学習指導要領が改訂される際にどのような点が注目されていたのかとい うものでした.統計学は新学習指導要領下では,かなり多くのことが扱われるこ とになりましたが,それは数学的能力の活用が課題となった背景によっていたと いうことでした.高等学校などの統計学の教育がこれに答えることができるかど うかが大切であるということでした.長尾先生の話に関心があってこられた中学 校・高等学校の先生方も多かったのではないだろうかと思いますが,村上先生の お話にあった具体的な文化現象の計量的な解析の話題は,まさにデータを生かす 恰好の例となったのではないでしょうか.

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