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実行委員会からのお知らせ

2007年度統計関連学会連合大会・市民講演会報告

谷崎久志・羽森茂之・松林洋一 (神戸大学大学院経済学研究科)

今年度も統計関連学会の社会貢献活動の一環として,一般市民・大学生・大学院生を対象とした市民講演会を開催した.統計データを通して統計学の重要性を一般の方に広く知ってもらうことを目的として,「統計データから見たEUと日本経済・関西経済について」というテーマ (座長:神戸大経済・谷崎久志,オーガナイザー:大阪大基礎工・狩野裕,神戸大経済・谷崎久志,京都大経済研究所・西山慶彦) で,2007年9月6日 (木) 17:00〜19:00 に,経済・経営学部本館102号室 (A会場) で,2人の講師に講演をして頂いた。参加費は例年通り無料とした。今年度は,EU インスティテュート関西 (http://euij-kansai.jp/) の行事の一つとして,共催という形をとってもらった。

最初の報告は,「"戦後最長"景気と日本経済・地域経済」というタイトルで,飯塚信夫先生 (日本経済研究センター) にお願いした。報告の要約は,次のようにまとめられる。

今回の景気回復局面は,"戦後最長"になった.その要因として,次の3点が挙げられる.
  1. 輸出の伸びは「いざなぎ以来」なのに,円安であった.
  2. 売り上げを伸ばしながら,賃金の抑制にも成功,高い利益の伸びを継続した.
  3. 設備過剰感の剥落と利益の高い伸びが,"失われた10年"で手控えられていた設備投資を伸ばした.
しかし,今回の景気回復は「輸出依存&リストラ型」とも呼べる特徴を持ち,その結果,産業間の成長率格差を広げることにもなった.例えば,1996年から2000年,2001年から2005年の2つの時期を比較すると,後者の方が「伸びる産業は伸び,縮む産業は縮む」という傾向が鮮明であった.さらに,産業間の成長格差は,地域の成長率格差にもつながっている.例えば,平成16年度県民経済計算により,地域ごとの成長率を比較すると,1990年代後半 (1996-2000年度) よりも2000年代前半 (2000-2004年度) に格差が拡大していることがわかる.  
日本経済の先行きに対して,民間調査期間の予測はおおむね楽観的であるが,リスク要因としては,次の3点が指摘できる.
  1. 円ドル相場が円高に向かい始めていること.
  2. 輸出の伸び率が鈍化しつつあること.
  3. 製造業の設備投資に資本ストック循環上の調整圧力があること.

次に,「統計データからみたEUと日本経済・関西経済」という大枠のテーマと同じタイトルで,久保広正先生 (神戸大学大学院経済学研究科) に報告をして頂いた。報告内容の要約は下記の通りであった。  

EU (欧州連合) は,約半世紀にわたる発展を経て,世界経済の約30%を占める規模にまで拡大しており,加盟国は2007年時点で27ヶ国に達している.EU経済は,1990年代以降,総じて低い成長率を享受しており,域内の統一通貨であるユーロも,その対外価値は低かった.しかしここ数年来,経済成長率は3%近くにまで上昇し,ユーロも増価傾向にあり,EU経済の活力は,まさに開花期を迎えた感が強い.  
同地域における経済活力の源泉は,マクロ経済面での特徴 (所得格差の低さ,財政赤字の低さ) のみならず,産業立地の特異性という構造的側面にも起因している.研究開発,情報産業など,規模の経済性が強く働く分野は,ドイツ,フランスといったEUの中核を成す国に集中している.他方,加工,組立産業に代表される,規模の経済性が相対的に低い分野は,旧東欧諸国などの周辺国に分散化されつつある.このような「産業の集中と分散」というメカニズムは,EU経済の中長期的な発展の原動力となっており,地盤沈下が喧伝されるわが国の地域経済,とりわけ関西経済の将来を展望するうえでも,学ぶべき点は多い.  
今日,わが国経済とEU経済は,モノの取引 (貿易) のみならず,おカネの取引 (投資) を通じて着実に強化されつつある.両地域の関係を,貿易,投資といった経済的関係のみならず,ヒトの交流,知識の交流へと深化させていくためにも,EUに関する研究教育拠点の役割,責務は大きい.神戸大学を中核とする「EU インスティテュート関西」の活躍に期待したい.  

各講演の後,質疑応答が行われ,盛会のうちに市民講演会を終了した.しかし,昨年度に比べて,参加者が少なかったのが少し残念であった (昨年度は約200名,今年度は約60名).市民講演会の参加者数が少なかった理由の一つは,今年度の場合,チュートリアルセッションと時間帯が重なったことが考えられる (例年は,チュートリアルセッションと市民講演会とが重ならないように時間割が組まれている).これは来年度への検討課題としたい.