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企画委員会からのお知らせ

2007年度統計関連学会連合大会・コンペティション講演報告

統計関連学会連合大会のコンペティション講演は今年で5回目であります.対象者は,平成19年4月1日時点で満30歳未満のいわゆる若手研究者(大学院生,教員等を問わない)です.大会における連名講演の場合は,コンペティション対象者は実際に口頭発表した方としました.  

昨年は事前審査を取り入れ講演数を絞りましたが,今年は,事前審査を行わずに,一昨年までと同様にコンペティション講演を申し込まれた方全員に大会当日講演をしていただきました.理由は,コンペティション講演を目標に研究をされてきた皆さんに講演をしていただき,自分の研究そして自分自身を多くの聴衆の方々に知ってもらうことが若手の方にとっては大切であると考えたからです.

大会における審査方法については,昨年と同様の方法で,コンペティションセッションの参加者の自主記名投票に基づき,企画委員会で選考することにしました.自主記名投票での評価は,A,B,Cの3段階評価を用いました.ただし,講演者ならびに共著者は自身への投票は出来ないことにしました.  

評価は,研究内容のみならず,発表者各自が工夫をして,うまく内容を伝えられたか,質問に的確に答えられたかという発表の仕方も含め,全体としての素晴らしいプレゼンテーションになっているかを評価の対象としました.  

コンペティションセッションは9月7日(金)の午前,午後(1),そして午後(2)と同じ会場(A会場)で行われました.講演数は17件でした.有効投票数は,最も多い講演者で95票,最も少ない講演者で32票でした.審査は,Aを2ポイント,Bを1ポイント,Cを0ポイントとし,講演者毎に有効投票数で平均点を算出しました.選考は,これらの点数に基づき,企画委員会で行いました.その結果,1位と2位の方の差が殆ど無く,企画委員会で検討しまして,今年度に限って最優秀報告賞は2名に授与することにしました.優秀報告賞は例年通り2名に授与することにしました. 2007年度統計関連学会連合大会の最優秀報告賞は,廣瀬善大さんと深澤正彰さんに,優秀報告賞は,小泉和之さんと田栗正隆さんに決定いたしました(講演順).受賞者の皆様には,閉会式(表彰式)にてそれぞれ賞状と副賞が贈呈されました.  

コンペティション講演をされました皆さんが,研究内容や発表の仕方等,素晴らしいプレゼンテーションでありました.昨年のコンペティション報告にも書きましたが,連合大会のような大変権威ある大きな学会でコンペティション講演することは,受賞する,しないにかかわらず,若手の皆さんにとって大変に有益であり,今後の研究活動への大きな励みになると思います.若手によるコンペティション講演は,毎年,大変多くの方が関心を持って注目しております.多くの方に自分(自分の研究と自分自身)を知ってもらう,又とない絶好のチャンスであります.

権威あるジャーナルへ論文を掲載することは重要なことでありますが,それとともに,若手の皆さんにとって,多くの方から一躍注目される立派なコンペティション発表をすることも大変に重要なことであります.今回コンペティション講演をされました方の中から,将来世界のトップクラスの統計研究者が誕生するものと確信しております.これからも若手の皆さんには,是非コンペティション講演を考えていただきたいと思います.

最後に,コンペティション講演を申し込まれました若手研究者の皆様,座長の先生方,審査に参加されました皆様,そして,コンペティション講演に関する準備等いろいろとご尽力いただきました大会運営関係者の方々へ心よりお礼申し上げます.

コンペティション受賞者のことば

最優秀報告賞

廣瀬 善大(東京大学大学院 情報理工学系研究科)

この度は統計関連学会連合大会コンペティション部門において最優秀報告賞に選んでいただき,ありがとうございます.栄誉ある賞を頂けたことを大変光栄に思います.コンペティションの企画・運営に携われた方々,そして私の講演を審査してくださった皆様に厚くお礼を申し上げます.また,平素よりご指導くださる方々にも感謝申し上げます.  
今回の発表では,Efronらにより提案されたLeast Angle Regression(LAR)という手法に対する,双対平坦空間における情報幾何の手法を用いた拡張について発表をいたしました.LARは,線形回帰問題に対する変数選択・パラメータ推定の手法のひとつで,ユークリッド空間において推定量を動かすアルゴリズムと考えることができます.今回はユークリッド空間よりもより一般的な双対平坦空間において,測地線とダイバージェンスを用いてLARの拡張を考えました.その際,推定量の動かし方に変更を加え,双対平坦空間においても動くようにアルゴリズムを修正しました.拡張されたLARは一般化線形回帰問題に対する変数選択・パラメータ推定の手法になります.  
発表の方法については,拡張されたLAR及びEfronらにより提案された元々のLARそれぞれの手法のイメージをしっかりと持っていただけるよう心がけました.そのために,数式はあまり用いずに,図によって視覚的に理解できるように工夫をしました.結果としてよい評価をいただけたことを嬉しく思っています.
まだまだ未熟な私ではありますが,今後もこの賞を励みとして日々の研究に取り組んで参りたいと思います.これからもご指導ご鞭撻を賜りますよう,よろしくお願い申し上げます.

最優秀報告賞

深澤 正彰(東京大学大学院数理科学研究科)

このたび最優秀報告賞を頂き大変光栄です.コンペティション講演という機会を設けてくださった企画・運営の先生方,講演を聴きにきてくださり,審査に参加して頂いたみなさま,ありがとうございました.また常日頃より御指導頂いている吉田朋広先生をはじめ,研究分野の先頭に立たれる先生方から,これまでに頂いた貴重なコメントの数々に,この場を借りて感謝致します.
今回の報告では「エルゴード的拡散過程,セミマルコフ過程に対するエッジワース展開・ブートストラップ」というタイトルで,連続時間で定義された確率過程に対する高次漸近理論における幾つかの結果を発表させて頂きました.この分野は近年,数理ファイナンスへの応用を念頭に注目を浴びており,今後も発展を続けるものと考えております.
プレゼンテーションに関しては,他の研究分野の方々を想定して,理論的結果の詳細を説明するよりも,具体的な例を通して,結果のニュアンスを伝えられるよう準備しました.会場の環境について予備知識がなかったので,文字の大きさ,配色に注意しました.時間の制約から,結果のすべてを紹介できず,聴きに来てくださった方々の御期待に沿えない部分があったかもしれませんが,申し訳なく思っています.
コンペティションセッションを含め,今回の統計関連学会連合大会では多くの刺激的な講演を拝聴でき,講演内容のみならずプレゼンテーションの方法についても多くを学ぶことができました.今回の貴重な経験を糧に,一層精進を重ねて行きたいと考えています.みなさまには今後とも御指導御鞭撻のほどよろしくお願い致します.

優秀報告賞

小泉 和之(東京理科大学大学院理学研究科)

統計関連学会連合大会優秀報告賞を頂き大変光栄に思います.本研究を進めるにあたって指導して頂いた瀬尾 隆先生(東京理科大学准教授)に深く感謝いたします.また,研究を支えてくれた研究室のメンバー,日頃からお世話になっているすべての方々に感謝いたします.
今回の発表では,2つの母集団の分散共分散行列に一様構造モデルを仮定し,さらに,得られた標本に欠測データが生じた場合の,2つの平均ベクトルの同等性検定問題を考えました.一様構造モデルはデータ間に独立性の仮定がなく,全てのデータ間に一定の相関があるようなモデルで,繰返し測定などでよく見られるモデルです.その一様構造モデルのもとで一標本問題の平均成分に関する研究は,これまでに数多く考えられてきました.また,観測データが何らかの原因で観測されない欠測値を含む状況においても,EMアルゴリズムなどで代表されるように数多くの研究があります.しかし,そのほとんどは漸近的な理論であり,正確な分布のもとでの議論はあまりない状況です.自分はそこに大変興味があり,研究を進めています.それらの正確な分布の議論は,一標本問題のもとでさえ少なく,多標本の問題にいたってはほとんどありません.そういった観点からも自分の研究は有用であると考えていますし,自分自身そんな研究が楽しいと思っています.
最後になりますが,統計学は,比較的新しい学問ですので,学生にも開拓の機会が多く与えられています.また,自分自身そうであったように,貴賞は統計学への挑戦を学生が意識するきっかけになっていくと思います.私自身は,今回の大会を通じて様々な分野の講演に多くふれ,今後の研究の励みになりました.新しい学問だからこそ,いろいろな視点からみた研究が多くあるので今後もこのような場が多く設けられることを期待しています.そして,今回の貴重なコンペティション講演を企画・運営していただいた関係者の方々,審査に参加いただいた方々に改めて御礼申し上げます.

優秀報告賞

田栗 正隆(東京大学大学院医学系研究科)

この度は,統計関連学会連合大会コンペティション講演において優秀報告賞をいただき,誠に有難うございました.大変光栄なことで,非常に嬉しく思っております.今回の受賞は私一人の力ではなく,日頃よりご指導いただいている大橋靖雄先生,松山裕先生をはじめ,お世話になっている周囲の方々のお蔭であり,心より感謝いたしております.また,本研究のために貴重なデータを提供して下さった JDC Study の関係者の皆様にも,厚く御礼申し上げます.
今回の研究では,調査票により食品摂取量を測定する場合の測定誤差を考慮した上で,食品摂取量と疾患発症との関連について検討を行いました.その際に,報告バイアスを補正する代償としての推定精度の低下に対して,Hierarchical Regression Model を適用し,安定した推定を試みました.シミュレーション実験の結果,提案した方法はバイアスが小さく,通常の方法と比較してよりMSEの小さな推定が可能となることが示されました.また,大規模臨床試験である JDC Study データに提案する方法を適用した結果,提案した方法は既存の方法と比較して顕著に狭い信頼区間を与えることが分かりました.測定誤差の補正による推定精度の低下は,多曝露なデータが得られる栄養疫学の分野においては重要な問題と考えられますが,本研究ではその解決に向けての一つの成果が出せたのではないかと思います.
プレゼンテーションでは,現実の問題とその統計的問題としての定式化,およびその解決法について,他分野の方々にも理解していただけるような分かりやすい発表を心がけました.スライドの作成や発表練習の過程では,研究室の関係者の方々に根気よくお付き合いいただき,皆様のアドバイスを受けて自分なりに工夫・改善を重ねました.今回のコンペティションを通じて,非常に貴重な経験が出来たと感じています.
今後はこのような立派な賞に恥じぬよう,なお一層の努力を重ね,研究に精進していきたいと思っています.今後とも,よろしくご指導下さいますようお願い申し上げます.